つらつらと並ぶ活字からふい、と顔をあげて目の前に座っているはずの仁を チラリと盗み見てやるが生憎顔は見えなかった。旋毛だ。 間違いない。こいつ、寝てる。ついさっきまで、前に盗み見たときには分厚 い本に釘付けだったのに。目線をちょっとだけ下に向けたら、その分厚い本 は膝の上できちんと閉じられていた。 大きな窓が集めた太陽の光が仁の髪をきれいな金色にみせているものだから 、うっかり見惚れて目が離せなくなってしまった。それにしてもいつもの仁 からは想像できないくらい、珍しいくらいに熟睡している。うたた寝のレベ ルじゃない。これはぜったい起きたあと首痛くなるだろうな。 ぐるぐると巡る考えは眼鏡をとってやったほうがいいんじゃないかというと ころにまで及んでしまった。…駄目だ、気になる。形だけの本を栞も挟まず に閉じて椅子の上に置くと、すっかり寝こけている仁の隣に移った。 それにしてもでかいソファーだ。どれだけかといえば、仁が真ん中を大きく 陣取っていてもさらにその両隣に人1人が大きく陣取れるだけのスペースが 残るくらい。そんなことを考えて、さらにくせのついた髪をちょっとだけ指 先で遊ばせてから、ようやく髪で隠れた耳にかかる眼鏡のフレームに手を伸 ばす。 「…え、わぁ!」 背中に衝撃。なんで!咄嗟に瞑った目を恐る恐る開けてみると、金色の髪の 先に高い天井が見えた。伸ばした手は掴まれすぐ顔の横、ソファーに縫いつ けられている。は?なに、俺、押し倒されてる?突然のことで口をぱくぱく させることしかできずにいると、上から笑い声が降ってきた。このやろう。 「仁!お前寝てたんじゃなかったのかよっ」 「随分と間の抜けた顔だな、光也」 会話をさせろ!ちくしょう、眼鏡とってやろうだなんてこんな変態相手に親 切心だしてやるんじゃなかった。人の上に跨って意地悪に成功した後の子ど もみたいな顔をするやつの腹に膝蹴りを喰らわす。げほっ、と咳き込み足癖 が悪いぞ、などと文句をいう仁はそれでも退こうとはしない。 「もう一発喰らいたくなかったらはやく退けっ」 「それは近づいてきたお前が悪い」 押し倒してくれといっているようなものだ、変態はさらりと言い放つ。 ああ、こいつはこうだった、なにしろ変態。もはや言葉もでない。 それでもせめてその変態に膝蹴りのもう一発でも二発でも、喰らわそうとお もえばできるのにそうしなかったのは、こいつの尊敬にすら値する俺様思考 のせいにしてやった。押し倒される前にきれいな金色に見惚れて指先で遊ば せたのとおなじように顔にかかった黒髪を掬われ、指に絡ませて遊ばれる。 「…なあ、」 「ん?」 「お前、いつから起きてた?」 「…さぁな」 あー、くそ!何度騙されたら学習するんだ!自分の学習能力に駄目だしをし て、あんまり変なことしてくるようだったら思い切り二発目喰らわしてやる 、ぼんやりとそんなことを考えながら、目を瞑った。               カモフラージュ















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本、寝たふり。カモフラージュ。