「ぅあー…、」 意味もないのに訳のわからない声が漏れるのもなんてことはない。試験期間 真っ只中の夜にはありがちだ。テーブルの上には蛍光の黄色いラインがとこ ろどころひかれた教科書と走り書きのメモみたいな文字の並ぶノートが開か れている。(というよりは投げられている、といった感じか。) 今回もまたずいぶんな量が範囲になったものだ、とんでもない。数式やら英 単語やら山程にあるこの惨状は考えただけでああ嫌だ。うんざりだ。おもわ ず手で顔を覆いたくなるのを抑えてとりあえず教科書を眼で追ってはみるけ れど次の瞬間にはもう時計の秒針の刻む音がやけに耳につくようになる。こ ういう時に限って気になったりするものだ。 ああもう、もどかしい。くあ、分厚い教科書を前にしてもう何度目かもわか らない欠伸がでた。 「一護」 「あ?」 「欠伸をするな、つられる」 「無理」 こういうのってなんていうんだっけ?不可抗力?テーブルをはさんだ向かい で眼をこすりながら無理な注文を投げるルキアを一瞥してあらためて教科書 に眼をおとすとつらつら並ぶ文字が二重くらいにぼやけてみえる。ああ、も うこれは。 この症状に陥ったらどうなるかを知ってる。授業中の居眠りにつながるそれ だ。こうなったらどうしたって頭にいれることなんて不可能に近いというこ とも。なんたって夢に堕ちる直前だ、こればっかりはどうしようもない。だ って眠いもんは眠い。ふと正面に眼をやるとルキアもみるからにもう駄目そ うだった。首が折れるんじゃないかっていうくらいに頭をこっくりこっくり させている、前後左右に。もう夢の世界にこんにちはしかけてるんだろう。 「ルキア、もう寝るか?」 「……」 「ルーキーアー、」 「……んぁ。いやまだ、や、るぞ…、」 「いやいや、無理だろもう」 「…」 「…」 「…あー、」 「あ?」 「一護、ココア」 「は?」 唐突にココア、ココアがなに?おもわず間のぬけた声をこぼすと眠気覚まし にココアを飲むのだ!と当たり前みたいにけろりとかえされた。 え、ココアで眠気覚ましってそれは何効果?ていうか何でココア?おもうと ころはいろいろあったのだけれどそういったものは、じと、という音がきこ えてきそうなくらい恨みがましさと物欲しさとがいりまじったようなルキア の視線にすべて流され、俺は結局仕方なく台所へと向かった。 「ほれ、」 「うむ」 両手にもったカップの片方を手渡すとルキアはふう、と中を軽く冷ますよう なしぐさをして、それから嬉しそうにそれをこくりと飲んだ。冷えこむので ホットココアにしたのは正解だった。なんたって2月の夜は寒い。 すっかりご機嫌なようすのルキアを横目にカップを口に運ぶと、ぬくくて甘 ったるいホットココアがじんわりと体じゅうにしみこんだ。 「なんだか、いいな」 「?なにが、」 「2人で夜更かししたりホットココアを飲んだりするのが」 「へえ、」 「たまには、こういうのもいいな」 その夜更かしの理由が試験勉強だ、ということはちゃんと覚えているのか。 ふとよぎった疑問はあえてホットココアといっしょに飲みこんだ。そう言わ れればたまにはいいかもしれないともおもう。こういうのも。悪くはない。 そんなことをちょっと考えてる間にルキアはテーブルに顔を突っ伏して爆睡 していた。 (とりあえず英語と数学は絶望的だろう)                     ホットココア















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2人で試験勉強とか悶えるんです が !