いまのこの状態を好転させる方法を知らない。 ふつうだったらなんて快適なんだとおもえるはずなのに、とか、そういえばいつも 気づくと聴こえてたんだピアノの音って、とか。とにかくこの嫌味なくらいにしん と静まりかえった部屋を、この状態を好転させる方法を知らなかった、オレは。 だってこのケースは誰にも予想できたはずがないことで、いままでにだってないし これからだってないとおもってたそうだろだって、100%オレが悪いケース、な んて。 (つまり、けんかをした) きっかけは忘れた、というか覚えてないしどうでもいいそんなことは。どうでもい い。いくないのはそのあとのオレの言葉だ。なぜいくないのかなんてそれを口にし たあとのあいつの表情がいちばん知っている。罪悪感と罪悪感ときりがない罪悪感 と、そうしてそんな表情ですら愛おしいとおもってしまった自分にどうしようもな い罪悪感。 (でも涙を必死でこらえる表情がどうしようもなく可愛いなんてうっかりおもって しまったのだ。) のだめは自分の部屋に駆けこんでしまったままだ。その勢いがどれだけのものだっ たかを自分の部屋のまだ開けっ放しにされたままのドアが教えてくるようで笑えた 。開けたら閉めろ!なんて常識的な言葉もいまはとてもじゃないがかけられない。 とりあえずドアを閉めてさてこれからどうすれば、こういうときのだめはどうして た?どうしようもなくオレのことを傷つけたとき、あいつはどうしてた?いや、い やそれよりも。 そもそもどうしようもなく傷つけられたこと、そんなことなんてあったっけオレ。 方法はわかりそうにないってことはわかった。 「のだめ、」 「…」 沈黙。予想通りだけどだったらそれからどうすればいいのかなんてすばらしい考え はとくにない。 目の前のドアひとつかんたんに開けられなくなるのか。この先にいるはずの気配を なんとか感じようとおもったら自然とでた手はドアに触れていた。このまま自然と 気の利いた言葉までスラスラでればいいのに。 「…のだめ、聴こえてるだろ」 「…」 「そのままでいいから聴いてくれないか」 深呼吸。やべェ指揮棒ふるときより緊張してるかも。 さっきはひどい言葉を口にしてしまったけどあれはオレじゃない、だってあんなこ とオレはすこしもおもってない。オレじゃない誰かだだから勝手をいうようだけど でも忘れてくれ。こういうときオレはどうやったらお前をまた笑顔にできるのかわ からないんだ。でも笑ってくれないか?お前が笑ってくれないと苦しいから、さっ きのはオレじゃないからだから笑ってくれないか? 「…ぷ、」 笑った。 開いたドアの先に立つのだめはこんどは涙じゃなく必死で笑いをこらえていた。涙 じゃなくてほっとしたけどいまこらえるのがなんで笑いなのかがわからない。 「なんデスか、さっきのいってることめちゃくちゃなの」 先輩じつはバカなんデスか?バカじゃねェよバカ。バカっていうほうがバカなんデ スヨ!そんなありきたりなこというほうがバカなんだよ。ていうか最初にバカって いったのお前だろ。 ていうかなんでこんなふつうにしゃべってんだ 「先輩、」 「なに?」 「試しました」 「は?」 先輩がどうするのか、試してみたんデスよ、だから部屋に駆け込んで待ってたんで す先輩のこと。 「先輩のことだからきっとふつうに謝りはしないんだろうなとおもったけど、」 当たりでした!ギャハ! ギャハ!ってお前! 体中の力がぬけるってコレのこというんだ、試したって、まじかよ。 先輩ドッキリの人みたいになってますヨ顔!クスクス笑う。笑ってら。ああじゃあ もういいや試されたんでもドッキリでも笑ってるなら。 「でも泣きそうなの本気でがんばってこらえたんデスよ」 「…」 「先輩があんなこと本気でおもってないってわかってても、」 それでもダメージ大でした。俯く。 愛おしい。 「もう嘘でもいわないから」 「約束してくだサイね」 「するよ」 すごくどうしようもなく抱きしめたくなっておもわず抱きしめていい?って口にし たらまた笑った。 将来的な2人の関係性が想像と異なるかもしれないとおもった。 (もしかしたら尻に敷かれるのかもしれない)                             ケース 0















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謝り方を知らない千秋と一枚上手ののだめ