あ、やるな。 おもったときには既に手遅れで、加えて言えば毎度の事なものだから もう驚くに驚けない。 目の前の女がギャボ!という奇声と共にすっ転んだ。 (漫画の世界でしかお目にかかれないような豪快さだ) 「…」 「…、ぜんばーい…」 顔面からいったから多分鼻を強打したのだ。先輩の単語がおかしい。 暫くの間うちひしがれたように静止していたがやがてフラーッと立ち 上がった鼻血女は(やはり鼻を強打したのだ)、いだいデズーぜんば いー、と、濁点だらけの言葉を尖らせた口許からこぼした。 「おまえ逆に器用だよ、何もないとこで何でそんなにすっ転べんだ」 「知らないデスよそんなの!のだめだって好きですっ転んでンじゃな いデスよ!」 「いい加減好きですっ転んでるんだとおもいたくなるんだけど」 とにかくおまえは鼻血を拭け鼻血を。ハンカチを放ってやる。それを 空中でパシンッと両手で挟むようにキャッチしたのだめは、先輩ハン カチ常備!紳士ー!と軽く女性失格な台詞を叫んだ。 頻繁にすっ転ぶ女はハンカチくらい常備してろよ。のだめが常備して なくても先輩が常備してるからいいんデス。おかしいだろそれ。おか しくないですヨー。 「だって、先輩はずーっとのだめの隣にいてくれるでしょう?」 (…あー、) そうして毎度この台詞を最後に言い返せなくなってしまうオレは毎度 この瞬間に目の前の鼻血女をどうしても好きなんだという事をおもい 知らされる羽目になる。そしてそれは今回も例に洩れる事なく。 ちらりと横に目をやれば面白くて仕方がないというような小憎らしげ な笑顔。 (もう…、ちくしょうオレ!) それにしてもあんまり毎度の事で悔しいので、今回からはいい加減相 当な枚数に昇っている使えなくなったハンカチの弁償を要求してやろ うかとおもう。                             ミニマル















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やっぱり最終的に一枚上手ののだめ