１.





（あとは、このボタン一つ）




自分から送ってしまったら何だか負けのような気がして、でもこんなこ
とで勝ち負けもクソもあるかと思い直して、それでもその思い直した理
由だって実は単なる言い訳でしかなくて本当はただ自分が堪えられない
だけなのだ、それも判っていた。
判っているからこそ自分から送ることに抵抗を感じて、そうしてさっき
からオレの親指は送信ボタンの上を行ったり来たりしている。 


（…何か）
（何か、オレ、）


阿呆っぽい？
あいつ相手に送るだけのことで何か阿呆っぽい、オレ。

頭の中をぐるぐるしていた低レベルな逡巡に別のオレが呆れたようだっ
た。ようやく送信ボタンを押すことができて携帯の液晶画面の時間をみ
ると、内容を打ってから６分経っている。 

無駄に疲れた気がしてならない。




（あー、阿呆だ、オレ）





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